令和5年12月に内閣官房と公正取引委員会の連名により、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が公表されています。

「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」が公表された背景として、原材料価格やエネルギーコストに比べ、労務費の転嫁が進んでいないことが挙げらています。

労務費の転嫁が進んでいない理由としては、以下のようなことを挙げています。

  • 労務費の上昇分は受注者の生産性や効率性の向上を図ることで吸収すべき問題であるという意識が発注者に根強くある。
  • 交渉の過程で発注者から労務費の上昇に関する詳細な説明・資料の提出が求められる。
  • 発注者との今後の取引関係に悪影響(転注や失注など)が及ぶおそれがある。

このような事を踏まえて、指針では、発注者、受注者、双方が労務費を適切に価格に転嫁するために採るべき行動をまとめています。

発注者が採るべき行動

1.本社(経営トップ)の関与

労務費の上昇分について取引価格への転嫁を受け入れる取組方針を具体的に経営トップまで上げて決定すること

経営トップが同方針又はその要旨などを書面等の形に残る方法で社内外に示すこと

その後の取組状況を定期的に経営トップに報告し、必要に応じ、経営トップが更なる対応方針を示すこと。

2.発注者側からの定期的な協議の実施

受注者から労務費の上昇分に係る取引価格の引上げを求められていなくても、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回など定期的に労務費の転嫁について発注者から協議の場を設けること。

特に長年価格が据え置かれてきた取引や、スポット取引と称して長年同じ価格で更新されているような取引においては協議が必要であることに留意が必要である。

協議することなく長年価格を据え置くことや、スポット取引とはいえないにもかかわらずスポット取引であることを理由に協議することなく価格を据え置くことは、独占禁止法上の優越的地位の濫用又は下請代金法上の買いたたきとして問題となるおそれがある。

3.説明・資料を求める場合は公表資料とすること

労務費上昇の理由の説明や根拠資料の提出を受注者に求める場合は、公表資料(最低賃金の上昇率、春季労使交渉の妥結額やその上昇率など)に基づくものとし、受注者が公表資料を用いて提示して希望する価格については、これを合理的な根拠のあるものとして尊重すること

4.サプライチェーン全体での適切な価格転嫁を行うこと

労務費をはじめとする価格転嫁に係る交渉においては、サプライチェーン全体での適切な価格転嫁による適正な価格設定を行うため、直接の取引先である受注者がその先の取引先との取引価格を適正化すべき立場にいることを常に意識して、そのことを受注者からの要請額の妥当性の判断に反映させること。

5.要請があれば協議のテーブルにつくこと

受注者から労務費の上昇を理由に取引価格の引上げを求められた場合には、協議のテーブルにつくこと。

労務費の転嫁を求められたことを理由として、取引を停止するなど不利益な取扱いをしないこと。

6.必要に応じ考え方を提案すること

受注者からの申入れの巧拙にかかわらず受注者と協議を行い、必要に応じ労務費上昇分の価格転嫁に係る考え方を提案すること。

受注者が採るべき行動

1.相談窓口の活用

労務費上昇分の価格転嫁の交渉の仕方について、国・地方公共団体の相談窓口中小企業の支援機関(全国の商工会議所・商工会等)の相談窓口などに相談するなどして積極的に情報を収集して交渉に臨むこと。

発注者に対して労務費の転嫁の交渉を申し込む際、一例として、以下の様式を活用することも考えられる。(ワード形式のデータは、こちらからダウンロードしてください。)

2.根拠とする資料

発注者との価格交渉において使用する根拠資料としては、最低賃金の上昇率春季労使交渉の妥結額やその上昇率などの公表資料を用いること。

3.値上げ要請のタイミング

労務費上昇分の価格転嫁の交渉は、業界の慣行に応じて1年に1回や半年に1回などの定期的に行われる発注者との価格交渉のタイミング、業界の定期的な価格交渉の時期など受注者が価格交渉を申し出やすいタイミング、発注者の業務の繁忙期など受注者の交渉力が比較的優位なタイミングなどの機会を活用して行うこと。

4.発注者から価格を提示されるのを待たずに自ら希望する額を提示

発注者から価格を提示されるのを待たずに受注者側からも希望する価格を発注者に提示すること。

発注者に提示する価格の設定においては、自社の労務費だけでなく、自社の発注先やその先の取引先における労務費も考慮すること。

発注者・受注者の双方が採るべき行動

1.定期的なコミュニケーション

定期的にコミュニケーションをとること。

2.交渉記録の作成、発注者と受注者の双方での保管

価格交渉の記録を作成し、発注者と受注者と双方で保管すること。

今後の対応

内閣官房は、各府省庁・産業界・労働界等の協力を得て、今後、労務費の上昇を理由とした価格転嫁が進んでいない業種や労務費の上昇を理由とした価格転嫁の申出を諦めている傾向にある業種を中心に、本指針の周知活動を実施するとしています。

公正取引委員会は、発注者が本指針に記載の12の採るべき行動/求められる行動に沿わないような行為をすることにより、公正な競争を阻害するおそれがある場合には、独占禁止法及び下請代金法に基づき厳正に対処していくとしています。

また、受注者が匿名で労務費という理由で価格転嫁の協議のテーブルにつかない事業者等に関する情報を提供できるフォームを設置し、第三者に情報提供者が特定されない形で、各種調査において活用していくこととしています。