全国社会保険労務士会連合会・中部地域協議会が主催した「シニア人材の戦力化と人事管理」に関するセミナーをオンラインで視聴し、とても勉強になりましたので、ご紹介させていただきます。
このセミナーは、今野浩一郎学習院大学名誉教授が講師を務められました。
シニア人材を取り巻く現状
はじめに、シニア人材を取り巻く現状について、お話されました。
- シニア(60歳以上)社員は、労働力人口の約「5人に1人」となり、「大きな社員(労働者)集団」と化している
- 活力ある社会経済、企業経営の実現にとって、シニア社員の戦力化と活躍は不可欠
そして、このような状況を踏まえ、今野先生は、企業側はシニア社員の活用に、労働者側は高齢期を視野に入れて働くことに、「本気になれ」と提言されていました。
また、政府は本気で「70歳まで働く社会」の実現を目指していると!
シニア人材の対応と人事管理の具体的な事例については、高年齢・障害・求職者支援機構が発行している発行雑誌「エルダー」が参考になると紹介されていました。
シニア人材の人事管理
シニア人材の人事管理に関して、再雇用による嘱託(非正社員)と現役(正社員)とは全く別の人事管理である。
また、現在多くの企業でみられるシニア人材の人事管理を「福祉的雇用」型人事管理であると説明されていました。
すなわち、
- 活用面では、現職継続、フルタイムで、職責・期待成果は低下、働き方の制約(残業、転勤ナシ)有り
- 処遇面では、評価を行わず、賃金の一律減少の賃金決定
つまり、「成果を期待しない」、「現役並みの活躍(経営への貢献)を期待しない」という雇用方法とそれに合わせた処遇。
また、高齢者賃金の相場としては、全体で60歳(定年)直前に対する比率が67.9%(出典:高年齢・障害・求職者支援機構『高年齢者雇用に向けた賃金の現状と今後の方向』)との数値を紹介されていました。
今野先生は、このようなシニア人材の「福祉的雇用」型人事管理の現状に対して、シニア人材は「福祉的雇用」型人事管理では対応できない大社員集団となっていることから、本格活用型人事管理構築の必要性を述べられていました。
そして、シニア社員には考慮すべきの2つの特殊性があると説明されました。
1.シニア社員は「短期雇用型」人材である
シニア社員の特徴は、短期雇用前提の「いまの能力をいま活用して、いま払う」短期雇用型人材であること。
これに対して、現役社員の特徴は、長期雇用前提の「長期的な観点に立って育て活用して払う」投資対象の長期雇用型人材である。
したがって、長期雇用型の現役社員と短期雇用型のシニア社員という社員タイブの違いを踏まえた人事管理の構築が必要であると。
2.シニア社員の働き方は「制約的」である
人事管理の「無制約社員」である現役社員から「制約社員」であるシニア社員への転換が生じる。
「制約社員」とは働き方に制約のある社員のことで、例えば、短時間・短日勤務、残業なし等の時間的制約や転勤・出張なしの働く場所的制約のある社員を指すそうです。
そして、「制約社員」への対応は、多様な制約社員が増加している現状においては、人事管理改革のトレンドであると。
シニア人材の人事管理の基本となる視点
再雇用とは定年を契機とした雇用契約の再締結であり、再雇用は「社内中途採用」である。
社内中途採用であると考えるならば、活用の決め方の基本は業務上の人材ニーズを満たす人材をシニア社員から確保・配置する「需要サイド型(必要なので配置する)」の決め方が基本となる。
高齢者がいるので仕事を作るという「供給サイド型」の決め方は「置いてやるという雇用」につながる。
「需要サイド型」のために踏まなければならない手順は、
- 企業は「シニア社員から何を買うのか(シニア社員に何を期待するのか)」、シニア社員は「会社に何を売るのか」を明確にする
- この両者のニーズの「擦り合わせ」を通して活用を決める
したがって「擦り合わせ」の方法・仕組みが成功の鍵とある。
具体的な対応例として、 シニア社員版の社内公募を説明されました。
実際に社内公募を行っている企業があるそうです。
「雇用」の意味の再認識
①「雇用」とは、企業にとっては「働いて成果をあげてもらい払うこと」、労働者にとっては「働いて成果をあげて稼ぐこと」
②「雇用」の内容の決まり方は、「会社の都合」(業務上の必要性)と「労働者の都合」(働くニーズ)の「擦り合わせ」で決まる。
したがって、法律により雇用継続が義務付けられたから雇用するという安易な考えでは、会社、社員双方にとって非生産的な雇用となる危険性がある。
シニア社員に問われていること
- シニア社員は「何を売るのか」を考え会社に提示すること
- 具体的には、業務上のニーズ (つまり、職場で求められていること)を踏まえて、「どのような役割」を通して、会社・職場に貢献するのかを考えること
それをもって、会社が提示する提案と「しっかり調整する」(「話し合う」「交渉する」)ことが必要
自分自身も、シニア社員として雇用継続を選択することもできる立場にあったので、今野先生の講義はとても示唆に富み、同感することが多く勉強になりました。